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井戸(いど)は地下水温泉石油天然ガスなどをくみ上げるため、またはを注入するために、地面を深く掘った設備である。

一般に「井戸」といった場合には地下の帯水層から地下水を汲み上げるための採水施設を指すことが多い河野伊一郎著 『地下水工学』鹿島出版会 p.43 1989年。以下、地下水を汲む井戸について説明する。
邸宅の井戸(愛知県常滑市)

概要


採水施設としての井戸の多くは地面に垂直に掘られた井戸(竪井戸『日本民俗大事典(上)』吉川弘文館 p.110 1999年日本民俗建築学会 『写真でみる民家大事典』柏書房 p.144 2005年)である。一般的に井戸は地下深い水源から取水しているものほど水量は安定し水質もよい 『小事典 暮らしの水 飲む、使う、捨てる水についての基礎知識』講談社 p.210 2002年。現在日本では、新しく伝統的な井戸を設置する(下記に示す掘井戸やまいまいず井戸)事は少なくなってきている。しかし、水源としての地下水は今もって重要であり、自治体によっては表流水ではなく、地下水のみを水道水源として井戸を使用している地域もある。水道水源の取水設備としての揚水井戸には浄水場が併設され、全体として浄水場と呼ばれることもある。

地表から地下の帯水層まで掘っていき井戸をつくることをさく井(さくせい)と呼ぶ土井巖著 『図解入門 よくわかる最新給排水衛生設備の基本と仕組み』秀和システム p.50 2011年。漢字では「鑿井」であるが「鑿」の字が常用漢字外であるため、鑿井業者は「さく井」と書くことが多い。なお、鑿(のみ)は大工道具のノミを意味する。

日本の政府開発援助NGOの手などにより、アフリカ諸国を中心に、井戸の掘削、手押しポンプの設置などが進められている。

日本語の「いど」の語源は水の集まるところを意味する「井処」に由来する

歴史



人は昔、の近くに集落を作り、そこに張り出しを作って洗い物や汲みをした。後に水を堰き止めて水を溜めるようになった。これらの張り出しや水を溜めたもののことを「井戸」と呼んでいた。シリア北東部、新石器時代テル・セクル・アルアヘイマル遺跡から発見された井戸は約9000年前のもので、浄水目的では最古の例と云われている2009年3月14日 共同通信社 シリアで9000年前の井戸発見 浄水目的は世界最古か
日本での古い井戸として、御井神社 (斐川町)の井戸、法輪寺 (斑鳩町)の井戸、玉の井(鹿児島県)が挙げられる高田京子、滝澤謙一『ニッポン最古巡礼』新潮社。やがて、山の麓に横穴をあけ、地下水を溜めて使うようになった。これにより、人は川から離れて集落を作ることがより容易になった。
さらに、井戸を掘削する技術の向上によって穴を縦に掘れるようになることで、地下水のある所ならどこでも住めるようになり、人々の居住範囲の拡大に資したものと考えられる。

井戸の種類

竪井戸と横井戸


地面に垂直に掘って地下水を汲み上げる井戸を竪井戸、山のなど斜面に水平方向に掘る井戸を横井戸という日本民俗建築学会 『写真でみる民家大事典』柏書房 p.144 2005年。横井戸の代表例としてカナートがある。

掘井戸と掘抜井戸


掘井戸
人が坑内に直接入って掘った井戸丸井戸ともいう。地域によって呼称が異なり「ガワ井戸」と呼ぶこともある、英語では Dug well。概ね直径1~3mの孔を、人力により垂直に地下水面に達するまで掘削する。孔壁が崩壊しないように、掘削しながら、孔壁に石積みブロックで、周りを補強しながら掘削していく。地層の硬さ等によって異なるが、おおよそ10~20m位掘ることができる。地下水位が浅い地域、特に自由地下水が豊富な地域(例えば関東地方では関東ローム層が分布する台地上)において、作成されていた井戸である。日本国内ではボーリング工法(掘削工法としての上総掘りも含む)による掘り抜き井戸を造る技術が普及する以前や、ボーリング工法を採用するまでもなく地下水位が浅い地域で多く設置されていた。現在ではボーリングによる井戸設置が一般化したため、掘井戸作成の職人が少なくなり、新しく造られることは少なくなってきている。
掘抜井戸
難透水層を掘り抜き深い帯水層の地下水を汲み上げる井戸。地上から棒状のもので穴を掘っていき細い水管を差し込んだものである。具体的にはボーリング工法(掘削工法としての上総掘りも含む)により作成する。江戸時代には上総掘りの普及といった技術の進歩や衛生上の利点といった点から掘抜井戸が普及した降水の少ない砂漠地帯でも水を得ることができる。オーストラリア中央部は、掘り抜き井戸が多いことで有名である。

被圧井戸と重圧井戸


井戸が被圧帯水層中に掘られているものを被圧井戸、不圧帯水層中に掘られているものを重力井戸という

自噴井
被圧地下水(胚胎する地下水の水面が、その帯水層上面よりも高い状態)に井戸を掘り、その水面が地表面以上になると、地下水は汲み上げなくても井戸から噴き出す。この状態の井戸のことを言う。掘り抜き井戸で被圧帯水層を取水している井戸にこの現象が現れる。地域的には扇状地の先端(地形としては扇端部と言う)にあることが多い。

浅井戸と深井戸


井戸の深さ(孔底深度)が浅く不透水層の上にあって自由地下水(不圧地下水)を取水している井戸を浅井戸 『小事典 暮らしの水 飲む、使う、捨てる水についての基礎知識』講談社 p.209-210 2002年、孔底深度が深く不透水層の下から取水している井戸を深井戸という。一般には深さ20mから30mが基準とされる 『小事典 暮らしの水 飲む、使う、捨てる水についての基礎知識』講談社 p.211 2002年。ただ、地下に分布する帯水層の深度は地域ごとに異なる。

まいまいず井戸


掘井戸の掘削方法で帯水層に達することができぬほど地表と地下水面(帯水層)が離れている場合には、まず地表にすり鉢状の窪地を堀り、その底に掘井戸を掘削する方法がとられた。これをまいまいず井戸と呼ぶ(地域により呼称が異なる)。すり鉢状の斜面には井戸端に降りて行くための螺旋型の歩道が作られた。武蔵野台地の西部地域によく見られる。ボーリング工法による掘削(掘削工法としての上総掘りも含む)の普及後は、新しく作られることはほとんどない。

江戸下町の井戸


江戸時代江戸下町地域の井戸は、地下水取水のための設備ではなく、玉川上水を起源とする、市中に埋設された上水道の埋設管路(ライフライン)からの取水設備であった。これは大部分の下町地域は太田道灌により海を埋め立てて造成された地域であり、井戸を掘っても海水ばかりがでて使い物にならなかったため、埋設管路により下町に水を供給し、これを井戸(形状としては掘井戸の形)に接続させ、給水を行っていたものである。そのため水が桶に溜まるまで多少の時間がかかり、それを待つ間に近所の者で世間話をする「井戸端会議」という言葉が生まれた。また水道水の場合は夏には生温かくなってしまうため、夏に冷たい水を売る水屋という商売もあった。

井戸の構造


井戸管(井戸ケーシングとも言う)
ボーリング工法(掘削工法としての上総掘りも含む)により掘削した孔に入れる管のことを言う。
スクリーン(日本ではストレーナーと言うことが多い)
井戸管のうち、地下水を取水するために孔またはスリット(縦ないし横に幅0.5~2mm程度の切れ目が入っている)が設置されている管のことを言う。
充填砂利(グラベルパッキングとも言う)
スクリーンが設置されている区間には、スクリーンの外周(掘削孔との間)に砂利を入れる。この砂利のことを言う。設置する目的は、主として地下水を取水する帯水層を構成する地層を井戸孔内に入れない(層状水の場合の細かい砂など)ようにし、井戸が詰まらないようにするためである。

一般的な井戸の設備


福井県一乗谷で復元した井戸。井桁を備え、つるべと桶で使用する。
テコの原理で水を汲み上げる「跳ねつるべ」の井戸。([[北海道開拓の村)

孔口(井戸の口元の事)
井戸孔内に雨水などが入らぬよう囲いや屋根を設ける。
井桁・井筒
孔口の周りを井の字状に囲った物を井桁という。丸く囲った物は井筒と言うが、方形の物を含めて井筒と言うことがある。
取水方法
垂直の井戸の場合には、掘井戸(上記参照)ではつるべと桶によって水を汲むほか、掘り抜き井戸ではポンプ(手押し式、電動式)で水を汲み上げる。手押しポンプは昭和初期から昭和20年代頃までよく利用された日本民俗建築学会 『図説 民俗建築大事典』柏書房 p.192 2001年。自噴井(上記参照)の場合には、自然と水が流れ出る。
横井戸(上記参照)の場合には、自然流下により取水する場合が多い。

井戸の利用

井戸水の特質


井戸水の水温は気温ではなく地温の影響を受けるが、その水温は年間を通してほぼ一定である。井戸水は一般的には地下をゆっくりと流れる際にミネラル分を溶かし込み、また、病原細菌や汚染物質についても地中微生物が分解したり土壌の吸着作用によって浄化される 『小事典 暮らしの水 飲む、使う、捨てる水についての基礎知識』講談社 p.211 2002年。ただし、特に浅井戸は地面の汚染に影響されやすく病原物質や原虫などが増え飲用に適さなくなる場合もある

厚生労働省による飲用を目的とする井戸の衛生対策


厚生労働省は昭和62年に「飲用井戸等衛生対策要領」を生活衛生局長名で通知(最終改正は平成16年)。飲用を目的とする井戸設置者等に対して、以下の3項目を求めている。

  • 周辺にみだりに人畜が立ち入らないように適切な措置を講ずること
  • 構造(ポンプ、吸込管、弁類、管類、井戸のふた等)並びに井戸周辺の清潔保持等につき定期的に点検を行い、汚染に対する防護措置を講ずるとともに、これら施設の清潔保持に努めること
  • 定期及び臨時の水質検査を行うこと

飲用目的井戸の水質検査の受検率は6%強程度にとどまっていると推定されている(平成16年度厚生労働省調べ)。また、受検された井戸のうち26%は一般細菌大腸菌硝酸窒素等の一般項目が水道法の水質基準(飲用に適する基準)に適合しておらず、さらに7%(受検井戸数は一般項目の1/3程度)はヒ素等の重金属が水道法の水質基準に適合していない状況である(同)。

地盤沈下の問題


工業用水等に利用するための深井戸からの大量の取水は地盤沈下の問題を引き起こしたため現在日本では厳しい規制が設けられている

非常災害用井戸


荒川区の公園内に設置された災害用井戸
近年、日本では災害時の水源として浅井戸が見直されている東京都埼玉県をはじめとした地方自治体では、大地震発生の際にライフラインが絶たれることを想定し、機能する既存の井戸を非常災害用井戸として指定し、非常時の飲料水など生活用水の確保を行っている。これらの井戸では定期的に水質検査を行っており、使用上の問題はないが、無指定の井戸については大腸菌等の細菌や、重金属により汚染されている場合も考えられることから注意が必要である。

井戸と生物


井戸は人工物な閉鎖水域であり外部の水界からは孤立しているため、原則的に固有の生物種はいない。しかし、井戸の水源となる地下水中には特殊な生物が生息しており、それが井戸水に侵入することがあり、イドミミズハゼイドウズムシなどが存在する。

井戸と文化


井戸には個人所有の場合と共同所有の場合がある。一般には高価であるため、集落の中では数戸単位で設置されることが多い。この場合、生活の一部である井戸端は格好の会話の場所となった。井戸は、往々にして垂直に細長く掘られた縦穴である。水は深いかも知れないが、水面は狭く、その底からは、真上を中心とする、わずかな角度しか見えない。そのため、見識が狭いことを井戸に言及して「井の中の蛙」などと言うこともある。逆に、これを利用して、地球の大きさを求めたのが、エラトステネスである。

年中行事


  • 若水汲み

元旦の朝には井戸から若水汲みが行われた

  • 井戸替え

掘井戸は水を汲み出して塵芥を取り去るための大規模な清掃が必要であり、これを井戸替え井戸浚え(いどさらえ)、晒井戸(さらしいど)などと呼ぶ日本民俗建築学会 『図説 民俗建築大事典』柏書房 p.193 2001年。日本では井戸替えも専門の業者が行う他、使用者が共同で当たり地域における夏の年中行事として行なわれる。井戸替えは盆前の七夕あるいは土用の日と決められる場合が多く江戸時代、江戸市中では7月7日に行われる年中行事であった江戸の歳事風俗誌 小野武雄著 講談社学術文庫

井戸の神聖化


水は生活にとって不可欠のものであり、それを汲み上げる井戸は重要視され信仰の対象とされてきた。日本においては井戸神として弥都波能売神(みづはのめのかみ、水神)などが祀られた。井戸の中になどが放たれていることもある。が棲めるということは水が清いということである。この魚を井戸神とみなす地方もあり、井戸の魚はとってはいけないとされる。イモリも井戸を守る「井守」から来ているという説がある。井戸には禁忌も多くあり、刃物や金物を投げ込むこと、大声を井戸に向かって発することは厳に戒められた

井戸は地下の黄泉に繋がる異界への入り口とも考えられていた。幽霊が出るなどはその一例である。また平安時代小野篁が井戸を通って地獄に通ったとされる伝説も有名。最近では鈴木光司によるホラー小説リング』があり、井戸が作品のキーポイントとなっている。盆を迎える前に井戸替え(井戸浚い)を行うのは死者の道を整備するという意味があったものと考えられている

家屋の解体などに伴って井戸を埋める際には、魔よけのために儀式が執り行われた。また、埋めることになった井戸に「息継ぎ竹」と呼ばれる竹を立てる風習があった

井戸を題材とした作品


その他


  • 和文通話表で、「」を送る際に「井戸のヰ」という。
  • 聖書では特にイエス・キリストが「ヤコブの井戸」でサマリア人の女に水を求める話(ヨハネ)が有名である。
  • 中国のことわざに「飲水不忘挖井人(水を飲むときには井戸を掘った人を忘れない)」というのがある。ある物事に先鞭を付けた人へのたとえとして使われている(日中国交正常化を主導した田中角栄の評など)。

特殊な井戸


石油生産の場合は油井(ゆせい)、天然ガス生産の場合はガス井(ガスせい)と言い、いずれも生産井(せいさんせい、Production well)とよぶ場合もある。地盤沈下抑止や、石油生産を向上させるために、直接帯水層に、水を注入する井戸については、注入井(ちゅうにゅうせい、Injection well)または涵養井(かんようせい、Recharge well)と言う。

地すべりを抑止するために、地中から地下水を排水することを目的として、直径4メートル程度の井戸を掘削し、井戸内部からすべり面に向けて、水平に排水用井戸を設置する対策工法がある。これらの井戸を集水井(しゅうすいせい)と呼ぶ。

地下水の水位や水質、地表付近の不飽和土中の地中ガスを観測するために設置する井戸を、特に観測井(かんそくせい)と呼ぶ。

脚注



関連事項



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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


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