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不思議の国のアリス
ジョン・テニエルによるアリスのお茶会(1865年)

不思議の国のアリス』(ふしぎのくにのアリス)は、イギリス数学者にして作家チャールズ・ラトウィッジ・ドジソンが、ルイス・キャロルの筆名で1865年に出版した児童文学である。主人公の少女アリスが、白うさぎを追ってうさぎ穴に落ち、そこから人間の言葉をしゃべる動物や人間のようなトランプの札の住むファンタジーの世界を冒険する物語である。

『不思議の国のアリス』の本文には、ドジソンとその友人たちに関わる逸話や、イギリスの学童の授業風景のパロディ・風刺が数多く含まれている。教訓物語から開放された新たな児童文学の出発点であり、言語遊戯、論理学、夢(精神分析)などに関する多くの論点をはらむ作品として、英文学史上でも特筆される。今日に至るまで、世界各地で訳され、子供だけでなく大人にも親しまれている。

本書の英語の原題「」の直訳は、『不思議の国でのアリスの冒険』となるが、日本では後述するように『不思議の国のアリス』の訳題で知られている。英語でも、しばしば省略形である 「」 の題名が使われる。この略題は近年の本作品の映画化などによって、広く用いられるようになった。

本書には『鏡の国のアリス』()と題された続編があり、両編の要素を組み合わせた映像化が何度も行われている。

一説によれば、聖書の次に世界中で読まれている本であるFCT系列 4/18 2:25〜2:55放送「アリス・イン・ワンダーランド」中で言及。

経緯



『不思議の国のアリス』は、作者チャールズ・ラトウィッジ・ドジソンと友人ロビンソン・ダックワースが、3人の少女たちと一緒にテムズ川をボートで遡っていたときから丁度3年後にあたる、1865年7月4日に出版された。3人の少女たちとは、

  • ロリーナ・シャーロット・リデル(Lorina Charlotte Liddell - 13歳・本編序詩「黄金色の昼下がりに」の「一の姫(Prima)」)
  • アリス・プレザンス・リデルAlice Pleasance Liddell(en) - 10歳・「二の姫(Secunda)」)
  • イーディス・メアリ・リデル(Edith Mary Liddell - 8歳・「三の姫(Tertia)」)

である。
アリス・リデル(当時7歳)チャールズ・ドジソン撮影(1860)

この行程は、イングランド、オックスフォード近郊のフォーリー橋から始まり、5マイル離れたゴッドストウ村で終わった。旅路の途中でドジソンは、アリスという名前の女の子の冒険の物語を即興で少女たちに語って聞かせた。

この物語は、少女たちのお気に入りとなり、アリス・リデルは自分のために物語を書き留めてくれるようドジソンにせがんだ。遂(つい)にドジソンは物語を文章にまとめて、1863年2月に『地下の国のアリス』(Alice's Adventures Under Ground) の最初の原稿を書きあげた。ドジソンが挿絵を添えたより精巧な肉筆写本を制作し、1864年11月26日にクリスマスプレゼントとしてアリスに寄贈した際に、このオリジナル原稿はドジソン自身により破棄されたようである(マーティン・ガードナー、1965年)。
『地下の国のアリス』大英博物館蔵

さらにドジソンは、彼の友人にして助言者であり、子供たちから愛されていたジョージ・マクドナルドに『地下の国のアリス』の未完成原稿を送っていた。マクドナルドの提言により、ドジソンは『アリス』を出版社に送るという決断を下した。ドジソンはチェシャ猫やキ印のお茶会の挿話等を書き足すことにより、18,000語の原稿を35,000語に加筆した。1865年に、ドジソンの手による物語は、ルイス・キャロル筆による『不思議の国のアリス』として、ジョン・テニエルの挿絵を伴って出版された。最初に印刷された2,000部は、テニエルが印刷の品質に難色を示したために回収された。しかし、(1866年の日付が奥付されているが)同年の12月に出版された新版が早急に印刷された。

アリスの完全版は速やかに売り切れた。『アリス』は、出版界における一大事件であり、子供たちと同様に大人たちからも愛好され、それ以来、途切れることなく版が重ね続けられている。現在の『不思議の国のアリス』には100版以上の版が存在し、無数の舞台化や映像化(映像化作品の項目を参照)がおこなわれている。
物乞いの娘に扮したアリス・リデル チャールズ・ドジソン撮影(1858)

主な出版上の出来事


  • 1869年 - アメリカで最初の版が印刷される。
  • 1871年 - ドジソンがロンドン滞在中に、もう一人のアリスことアリス・レイクスに出会い、鏡に映る彼女の鏡像についての対話が『鏡の国のアリス』の構想に結びつく。
  • 1886年 - キャロルが初期の『地下の国のアリス』の複製本を出版する。
  • 1890年 - キャロルが「0歳から5歳の読者のための」特別版The Nursery Aliceを出版する。
  • 1908年 - 日本語への最初の翻訳がおこなわれる(日本での『不思議の国のアリス』の項目を参照)。
  • 1960年 - アメリカの著述家マーティン・ガードナーが『注釈・不思議の国のアリス』(The Annotated Alice(en))と題して、『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』を1冊にまとめた本を出版する。同書では、ドジソンによるビクトリア朝ののパロディを含めて、両編への広範な注釈がおこなわれている。後の版ではさらなる注釈が追加されている。
  • 1998年 - オークションで初版本が150万ドルで競り落とされ、それまでに落札された最も高価な児童文学書となる(1865年の初版本はわずか22冊の所在が知られており、17冊は図書館に収められ、残り5冊は個人の所蔵となっている)。

『不思議の国のアリス』は50か国語以上の言語に翻訳されている。

あらすじ


お姉さんと一緒のピクニックの間、アリスという名前の女の子は退屈しどおしです。外套(がいとう)に身をつつんで「遅れちまった!」とつぶやいている白うさぎに興味をひかれたアリスは、白うさぎを追いかけて穴の中に飛び込みます。アリスはパラドクスと不条理と非現実の、地下世界の夢の中へと落っこちてしまいます。白うさぎを追いかけようとしているうちに、アリスはいくつもの災難に出くわします。アリスは巨人のように大きくなったり、半分の身長に縮んでしまったり、アリスの涙で立ち往生した動物たちと出会ったり、白うさぎの家にはまり込んでしまったり、子ブタに変わる赤ん坊や消える猫を見つけたり、いつまでも終わらないお茶会に参加したり、人間そっくりのトランプの札とクロケーをしたり、海岸ではさらにグリフォンと代用海ガメたちに会ったり、タルトを盗んだと告発されたハートのジャックの裁判に加わったりします。そして最後に、アリスはお姉さんのいる木の下で目をさますのでした。

テーマとして含まれる要素


目次


  • 第1章/ウサギの穴へ落ちて “Down the Rabbit-Hole”
  • 第2章/涙のプール “The Pool of Tears”
  • 第3章/コーカス・レースと長いお話 “A Caucus-Race and a Long Tale”
  • 第4章/白ウサギ、トカゲのビルを送り込む “The Rabbit Sends in a Little Bill”
  • 第5章/芋虫からの助言 “Advice from a Caterpillar”
  • 第6章/子ブタと胡椒(こしょう) “Pig and Pepper”
  • 第7章/キ印のお茶会 “A Mad Tea-Party”
  • 第8章/女王様のクロケー場 “The Queen's Croquet-Ground”
  • 第9章/代用海ガメの話 “The Mock Turtle's story”
  • 第10章/ロブスターのカドリール “The Lobster-Quadrille”
  • 第11章/誰がタルトを盗んだのか? “Who Stole the Tarts?”
  • 第12章/アリスの証言 “Alice's Evidence”

登場人物(登場順)


  • アリス (Alice)
  • アリスのお姉さん (Alice's Sister)
  • 白うさぎ (The White Rabbit)
  • ハツカネズミ (The Mouse)
  • アヒル(The Duck)
  • ドードー鳥 (The Dodo)
  • インコ (The Lory)
  • ワシの子 (小ワシとも)(The Eaglet)
  • 年よりのカニ (The Old Crab) - 若いカニの母親。
  • 若いカニ (The Young Crab) - 年よりのカニの娘。
  • 年よりのカササギ (The Old Magpie)
  • カナリヤ (The Canary)
  • トカゲのビル (Bill the Lizard)
  • 子犬 (The Puppy)
  • 芋虫 (The Caterpillar)
  • ハト (The Pigeon)
  • 魚の従卒 (おさかな顔の召使とも)(The Fish-Footman)
  • カエルの従卒 (カエル顔の召使とも)(The Frog-Footman)
  • 公爵夫人 (The Duchess)
  • 赤ん坊 (The Baby)
  • 料理女 (The Cook)
  • チェシャー猫 (The Cheshire Cat) - 英語慣用句チェシャーの猫のようににやにや笑う」“grin like a Cheshire cat”を擬人化したキャラクター。この慣用句の語源にはいくつかの説があり、(1)酪農が盛んなチェシャー地方には有名なチェシャー・チーズをはじめとする酪農製品が豊富にあり、ミルクやクリームが好きな猫にとっては好物がたくさんあるからついニコニコするため (2)チェシャー・チーズに集まってくるネズミを捕まえてご満悦であるため (3)チェシャー・チーズが猫の形に作られていたため (4)当地方の有力な一族の紋章のライオンが、笑う猫に似ていたため、などが挙げられる中日新聞(2008年8月31日付)
  • 三月うさぎ (The March Hare)- 英語の慣用句「三月のうさぎのように気が狂っている」“mad as a march hare”を擬人化したキャラクター。当時、三月は野うさぎの発情期の始まりで気が違ったように見えるという説があった。
  • 帽子屋 (The Hatter) - 英語の慣用句「帽子屋のように気が狂っている」“mad as a hatter”を擬人化したキャラクター。当時の帽子屋はフェルトの加工に水銀を使用しており、その影響によるものという。
  • ヤマネ (眠りねずみとも)(The Dormouse) - 英語でヤマネは語源的に「眠るねずみ」の意味(冬眠が長いため)。またフランス語で“dormeuse”は「よく眠る(女の)人」の意味。
  • トランプの2番、5番、7番 (Two, Five & Seven)
  • ハートの王様 (The King of Hearts)
  • ハートの女王様 (The Queen of Hearts)
  • ハートのジャック (The Knave of Hearts) - “Knave”には「悪党」の意味もある
  • グリフォン (The Gryphon)
  • 代用海ガメ(海ガメフウ、海ガメもどき、にせ海ガメなどとも) (The Mock Turtle) - “Mock Turtle Soup”は海亀の代用品に子牛を使ったスープ。したがって“Mock”の“Turtle Soup”であるが、これを“Mock Turtle”の“Soup”と切り方を変える言葉遊びによって生み出された架空の生物
  • 陪審員たち (Jurors)

登場人物の原型


キャロルの物語が最初に披露された、ボートによるピクニックのメンバーが、第3章「コーカス・レースと長いお話」に登場する。そのくだりでは、アリスはアリス本人のままで、キャロルすなわちチャールズ・ドジソンはドードー鳥(Dodo)として戯画化され、ロビンソン・ダックワースはあひる(Duck)として、ロリーナ・リデルはインコ(Lory)として、イーディス・リデルはワシの子(Eaglet)として、それぞれ戯画化されて登場する。トカゲのビル(Bill the Lizard)は、ベンジャミン・ディズレーリの名前をもじったとも言われている。

帽子屋は、型破りな発明によりオックスフォードで知られていた家具商人テオフィルス・カーターをほのめかした登場人物であると考えられる。キャロルの提案によりテニエルは帽子屋にカーターの似顔絵を使ったのであると見られている。

ヤマネの物語に登場する3人の小さな姉妹(little sisters)の名前エルシー、レイシー、ティリーは、リデル三姉妹(Liddelの発音はLittleとそっくり)のことである。エルシー(Elsie)はL.C.すなわちロリーナ・シャーロットであり、ティリー(Tillie)は家族の間のニックネームがマティルダであったイーディスのことであり、レイシー(Lacie)はアリス(Alice)のアナグラムである。

代用海ガメの話に出てくる話術(Drawling)の教師であり、週に1回話術と体の伸ばし方(Stretching)と、とぐろを巻いて気絶するやり方(Fainting in Coils)を教えに来ていた「お年寄りのアナゴ」とは、美術批評家のジョン・ラスキンをほのめかしたキャラクターである。ラスキンはリデル家に週1回やってきて、子供達に絵画(Drawing)と写生(Sketching)と油彩(Painting in Oils)を教えていた(リデル家の子供達は実際によく学び、アリス・リデルは幾つもの熟練した水彩画を制作している)。

詩と童謡


詩には、筆者による題名は付けられていないため、慣習的に冒頭の節(第1行目)を題名とすることが多い。

  • 「黄金色の昼下がりに」 "All in the golden afternoon..." - 『地下の国のアリス』の冒頭で、キャロルからリデル三姉妹へ捧げられた序詩。
  • 「何て小さなワニは」 "How doth the little crocodile..." - アイザック・ウォッツの子供向け教訓詩「怠惰と悪さに抗(あらが)って」"Against Idleness and Mischief" のパロディ。
  • 長いお話 The Mouse's Tale http://bootless.net/mouse.html(en) - 家の中で猛犬に出くわしたハツカネズミが、むりやり裁判にかけられる話。原文では文章を波打たせた視覚的効果がなされている(リンク先参照)。原題は「ネズミのお話」と「ネズミの尻尾」を掛けている。
  • 「いい年なのに ウィル親父」 "You are old, Father William..." - 老年期の幸福を語るロバート・サウジーの教訓詩「老齢の快適はいかにして得られるか」"The Old Man's Comforts and How He Gained Them" のパロディ。
  • 公爵夫人の子守唄「ちっちゃな子には怒鳴り声」 The Duchess' lullaby: "Speak roughly to your little boy..." - デヴィッド・ベイツの「優しく説き聞かせよ」 "Speak Gently"のパロディ。
  • 「きらきら光るコウモリさん」 "Twinkle, twinkle little bat..." - 「きらきら星」のパロディ。
  • ロブスターのカドリール The Lobster Quadrille - メアリー・ハウィット夫人の詩「蜘蛛と蝿」“The Spider and the Fly”のパロディ。
  • 「ロブスターの声がする、耳を傾け聞いたなら」 "’Tis the voice of the lobster, I heard him declare..." - 怠惰を非難するアイザック・ウォッツの教訓詩「怠け者の声がする」 "Tis the voice of the Sluggard" のパロディ。
  • 海ガメのスープ Turtle Soup - ジェームズ・M・セイルズの流行歌「夜の星、美しき星」"Star of the Evening, Beautiful Star"のパロディ。
  • 「ハートの女王が つくったタルト」 "The Queen of Hearts..." - 実在するマザーグース
  • 「君は彼女の元にいたと彼らが語り」 "They told me you had been to her..." - ドジソン自身により1855年に『コミック・タイムズ』に発表された、代名詞で構成された難解な詩。作中では白うさぎの証言として使われる。

テニエルによる挿絵


ジョン・テニエルによるアリスの挿絵は、実在したアリス・リデルの似顔絵ではない。キャロルはテニエルに別の子供友達であるメアリー・ヒルトン・バドコックの写真を資料として送ったが、テニエルが実際にバドコックをモデルとして採用したかどうかは疑問の余地がある。

著名な文章と表現


題名にある「ワンダーランド(不思議の国)」という用語は、幻想的な架空の場所や、現実のなかで夢が実現する場所を指し示す言葉である。「ワンダーランド」という用語は、書籍や映像、ポップ・ミュージック等のポップカルチャーのなかで広く言及されている(影響を受けた作品の項目を参照)。一例として、日本の小説家村上春樹による『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』と題された小説がある。第1章の章題である“Down the Rabbit-Hole”(ウサギの穴に落ちて)は、未知の世界への冒険の出発を表現する有名な用語となった。映画『マトリックス』のなかで、モーフィアスはネオをうさぎの穴に落下するアリスになぞらえる。白うさぎは、冒険の開始を示す合図として、同様の含意を持っている。『マトリックス』において、パソコンに表示された「白ウサギの後を追え」というメッセージに促されて、ネオの冒険は開始される。

第6章のチェシャー猫の消滅は、最も印象的な一文を言わせるようにアリスに促す。「……猫のないにやにや笑いだなんて! わたしが生まれてから見た、一番おかしなものよ!」クリス・マルケル監督の“A Grin Without a Cat”(1977年)と呼ばれるフランス映画が存在する。

第7章では、帽子屋が有名な答えのないなぞなぞを出題する。「カラスが書き物机に似ているのはなぜか?」キャロルはこのなぞなぞに解答を与える意図は持っていなかったが、1896年版の『アリス』の序文でいくつかの解答を提示している。「なぜならば、どちらも少しばかりの“note”(鳴き声、覚え書)が出せますが、非常に“flat”(平板、退屈)なものです。そして、どちらも前と後を間違えることは決して(nevar)ありません!」この“nevar”はraven(カラス)を後から読んだ逆さ読みであったが、後の版では“never”に綴りが「修正」されてしまい、キャロルの仕込んだ駄洒落(だじゃれ)は失われてしまった。パズル作家のサム・ロイドは、以下の解答を提示している。「なぜならば、どちらで出される“note”も“musical notes”(旋律、音符)ではない」「どちらもポーがそれに拠って書いた」「どちらも“bill”(くちばし、勘定書)と“tale”(尻尾、物語)をその特性として含んでいる」「どちらも“leg”(足、支柱)に支えられており、“steals”(窃盗)(“steels”(鉄鋼株))を秘密にして、“shut up”(黙らせる、閉め切らせる)させるためのものである」ガードナーの注釈本では、他の多くの解答例が紹介されている。

第8章で、ハートの女王がアリスに“Off with her head”(この子の首をちょん切っておしまい!)と叫ぶ。おそらくキャロルはこの場面で、シェイクスピアの戯曲『リチャード三世』第3幕第4場76行目で、リチャードがヘイスティングス卿の処刑を命じ、“Off with his head!”と叫ぶ場面を意識したのだと思われる。この文章は1967年ジェファーソン・エアプレインの曲「ホワイト・ラビット」で、比類のない幻覚の含意として使われている。

言葉遊び


『不思議の国のアリス』の文章そのものは、非常に平易な英語で書かれているが、そのなかには無数の英語に依存した掛詞駄洒落がちりばめられている。特に、代用海ガメが第9章でアリスに語って聞かせる「海の学校」の学科のくだりは、翻訳者泣かせの文章として知られている。


「はじめは、這(は)い方(Reeling)ともだえ方(Writhing)からでした」代用海ガメは答えました。「次は算数の四則です。野心(Ambition)、動揺(Distraction)、醜怪(Uglification)、愚弄(Derision)。」

「わたし、『醜怪』なんて聞いたこともない」アリスは思い切って口をはさみました。「それって、何をやるんですか?」

グリフォンは驚きのあまり、両前足をふりあげました。「いやはや! 醜怪を聞いたことがないとはね!」グリフォンは叫びました。「じゃあ聞くが、美化は知っているかね?」

「はい」アリスはためらいがちに答えました。「それは……何かを……きれいにすることです」

「うむ、その通り」グリフォンは続けました。「それなのに醜怪がわからないのは、お前さんが間抜けってことだよ」

アリスはそれ以上醜怪について尋ねる気をなくしてしまい、代用海ガメに向きなおって言いました。「他には、何を習っていたんですか?」

「そうですね、謎(Mystery)がありました」代用海ガメは学科をひれ折り数えながら答えました。「古代の謎と現代の謎に、海洋学(Seaography)、それから話術(Drawling)……話術の先生はお年寄りのアナゴで、1週間に1度来ていらっしゃいました。この先生は僕たちに、話術と体の伸ばし方(Streching)と、とぐろを巻いて気絶するやり方(Fainting in Coils)を教えてくださいました。」

  • 這い方(Reeling)ともだえ方(Writhing) - 読み方(Reading)と書き方(Writing)
  • 野心(Ambition)、動揺(Distraction)、醜怪(Uglification)、愚弄(Derision) - 足し算(Addition)、引き算(Subtraction)、掛け算(Multiplication)、割り算(Division)
  • 謎(Mystery) - 歴史(History)
  • 海洋学(Seaography) - 地理(Geography)
  • 話術(Drawling) - 絵画(Drawing)
  • 体の伸ばし方(Stretching)、とぐろを巻いて気絶するやり方(Fainting in Coils) - 写生(Sketching)、油彩(Painting in Oils)

映像化作品


映像化の詳細は不思議の国のアリス (映画)も参照。

日本における『不思議の国のアリス』


日本において、『不思議の国のアリス』は、現在まで20人以上の訳者によりさまざまな翻訳がおこなわれている。日本におけるAlice's Adventures in Wonderlandの初訳は、1908年2月に実業之日本社から創刊された『少女の友』の第1巻第1号から第10号までに連載され、1912年に紅葉堂書店から1冊にまとめられて出版された、「須磨子」名義による永代静雄訳の『アリス物語』である(ただし、この翻訳は原作の細部を作り変えた、改作に近い翻案であった)。2年後の1910年丸山英観によって発表された『愛ちゃんの夢物語』は、当時の外国文学の翻訳の慣習にのっとり、登場人物名が日本人に置き換えられている。ほかに、初期の珍しい訳本としては、芥川龍之介菊池寛の共訳による、『アリス物語』(1927年)が挙げられる。

『アリス』の訳題として日本で定着した『不思議の国のアリス』という題名は、1930年の長沢才助訳『不思議の國のアリス』が初出とされている。

現在入手可能な『アリス』の邦訳としては、福島正実高杉一郎脇明子、石川澄子、生野幸吉北村太郎蕗沢忠枝多田幸蔵中村妙子矢川澄子山形浩生柳瀬尚紀高橋康也・高橋迪他の訳書がある。日本の訳書の挿絵は、ジョン・テニエルのイラストをそのまま流用した版が多いが、福島正実訳では和田誠がシンプルな描線によって、矢川澄子訳では金子國義が幻想的なタッチによって、『アリス』の世界を、それぞれ独特な画風で描き出しているほか、高橋康也・高橋迪訳によるアーサー・ラッカム挿絵のものや、村山由佳訳によるトーベ・ヤンソン挿絵の『アリス』が存在する。2010年に刊行された角川つばさ文庫版(河合祥一郎訳)はokamaが挿絵を担当した。

1983年10月10日から1984年3月26日にかけて、日本アニメーションの制作でアニメ『ふしぎの国のアリス』全26話が放映された(放送時間は月曜19:30 - 20:00)。監督は杉山卓。声優として、アリス役をTARAKOが、アリスのペットであるうさぎのベニーを野沢雅子が演じている。

文化とコレクション


現在の『不思議の国のアリス』は、何百ものコレクターズ・アイテムやウェブサイト、芸術作品を生み出す、1つの文化現象となっている。莫大な数の個人所蔵アリスコレクションは、最近はインターネットにより数を増やしつつある。稀覯本(きこうぼん)から最近のコミッションド・アートまで、2500以上のグッズが、頻繁にeBay経由でオークションに上げられている。置時計からイアリングや枕カバーまで、想像できるあらゆる種類のアリス関連商品が入手可能である。アリスグッズの場所を突き止めるのはいつも簡単とは限らないが、しばしば「アリス・ショップ」と呼ばれる店でグッズを見つけ出すことができる。イギリスには、スランデュドゥノの“the Rabbit Hole”やオックスフォードの“Alice's Shop”といったアリス・ショップがある。より小規模なアリス・ショップは、ハルトン・チェシャや、アリス・テーマパークのあるボーンマスで見つけ出せる。アメリカでは、カリフォルニアの“the White Rabbit”がある。事実、他のどの国でも入手できないほど、多数のアリス関連商品がアメリカには存在する。その内の1つが、Sherlock Holmes and the Alice In Wonderland Murders(en)(『シャーロック・ホームズと不思議の国のアリス殺人事件』)と呼ばれる書籍である。

インターネット上には、シンプルなサイトから学術的なサイトまで、数百のアリス関連サイトが存在する。実在したアリス・リデルやルイス・キャロルの情報を提供する、伝記サイトもある。

『不思議の国のアリス』に影響された作品


キャロル自身による続編に加えて、他の多くの芸術作品に、『アリス』は影響を与えている。

文学


  • ジェイムズ・ジョイスの小説『フィネガンズ・ウェイク』への『アリス』からの影響はよく知られている。『フィネガンズ・ウェイク』は夢に関する小説であり、以下のような文章を含んでいる。「アリシャス、ぐるぐる光り(トゥインストリームズ・トゥインストリームズ)、魅惑の鏡を抜けて巨人の国にいるのか?」「――孤独な不思議の旅人は我らを永遠に見失った。悲しきかな(アラス)アリスは鏡を割った! リデルは木の葉を抜けて閉じ込められ、我らは苦痛の謎にある」
  • ウラジーミル・ナボコフは、『アリス』を母国語であるロシア語に翻訳した。ナボコフの小説は、“Ada, or Ardor”に見られる戯本のタイトルのように、多くのキャロルへの言及を含んでいる。しかしながらナボコフは、かれの生徒にして注釈者だったアルフレッド・アペルに、かの悪名高いペドフィリアの主人公が登場する『ロリータ』は、作品のテーマである写真術という芸術形式へのキャロルの興味にもかかわらず、キャロルからの影響は意識していないと語っている。
  • イギリスの作家ジェフ・ヌーンは、未来の空想上のマンチェスターを舞台にした作品“Vurt”(1993年)から始まる一連のサイバーパンク小説に、多数のキャロル語を挿入した。これらの作品において、ヌーンは不思議の国と鏡の国における論理の発展を、登場人物が没入する仮想現実サイバー詩の主題とした。これらの作品でなされうる解釈の1つは、『鏡の国のアリス』における「赤の王様の夢」の仮定と同様に、アリスの夢の中ではあらゆることが起こるということである。また、ヌーンは彼自身が冗談半分に3作目の『アリス』と名付けた『未来少女アリス』を執筆した。この挿絵付き小説の中で、アリスは柱時計の中に入り込み、クォークという名の透明な猫やアリスの自動人形であるスリアなどの、奇怪な住民の住む未来のマンチェスターに現れる。
  • フィリップ・ホセ・ファーマーのSF作品『リバーワールド』シリーズの登場人物にアリス・リデルがいる。アリス・リデルが死亡後、髪を失ってリバーワールドに復活したことになっているが、挿絵(もしくはディズニーのアニメ版)の印象が強いためか作中の人物は「髪があるなら金髪」と想像している。
  • アメリカの推理作家エラリー・クイーンの作品には『アリス』への言及がよく見られる。『Yの悲劇』では主舞台のハッター家を「マッド・ハッター一族」となぞらえ、その一方で有名ないかれ帽子屋ほど狂ってはいなかったと記している。また短編「キ印ぞろいのお茶の会の冒険」(創元推理文庫『世界短編傑作集 4』に所収、嶋中文庫版の作者短編集『神の灯』には「マッド・ティー・パーティ」のタイトルで所収)では、オーエン家のパーティーで『不思議の国のアリス』の一場面として「キ印のお茶会」が演じられ、帽子屋を演じた主人が行方不明となっている。さらにアリスという女性が登場する中編「神の灯」においても、一夜にして消失した屋敷(があったはずの場所)を前にして、探偵エラリー・クイーンがその不思議さのあまりに「おまけに、不思議の国に登場する少女と同名の女性もいる」「不思議の国」への言及は嶋中文庫版の短編集『神の灯』に所収の同名作品の訳においてであり、創元推理文庫『エラリー・クイーンの新冒険』に所収の同名作品では「アリスという名の女性もいる」と、直接には「不思議の国」には言及しない訳となっている。と語っている。
  • アメリカの推理作家ジョン・ディクスン・カーの作品にも『アリス』への言及がよく見られる。処女作『夜歩く』の第5章の章題が「不思議の国のアリス」で、その中で『アリス』の本が小道具として用いられている。また『帽子収集狂事件』(原題" The Mad Hatter Mystery ")では、帽子を盗みまわる「マッド・ハッター」に気をつけるよう忠告された探偵ギディオン・フェル博士が、忠告した相手が「三月ウサギ」と呼ばれているのではないかと返している場面がある。さらに別名義であるカーター・ディクスンの『プレーグ・コートの殺人』においても、探偵役のヘンリー・メリヴェール卿(通称H・M)の執務室の様子を「不思議の国のアリス」に入ったようだと紹介され、そこでH・Mは「いい年なのに ウィル親父」の一節を口ずさんでいる。

絵画


映画・テレビ・ラジオ


  • ジム・ヘンソン監督による1986年の映画『ラビリンス/魔王の迷宮』は、アリスの物語の影響を受けた映画の1つに数えられる。この作品は明らかにキャロル的な作風を備えている。この映画は、言葉をしゃべる不思議な生物たちの住む奇妙なファンタジーの世界を冒険し、いくつものパズルを解き明かさねばならなくなった少女の物語である。
  • マトリックス』(1999年)は、白ウサギのタトゥーに誘われて反乱組織に加わった主人公ネオを特徴としている。この映画の監督であるウォシャウスキー兄弟は、『不思議の国のアリス』がマトリックス3部作を貫くテーマであると述べている。また、アニマトリックスの『ディテクティブ・ストーリー』も『鏡の国のアリス』の引用が多い。
  • ドニー・ダーコ』(2001年)では様々なキャロル的要素が、夢と悪夢や悪魔のようなラビットマン、グラウンドのゴルフホールなど、そのダークな筋書きに沿って改変されている。
  • バイオハザード』(2002年)も幾つかの『アリス』に対する言及を行っている。名前のないメインキャラクターの1人は、アリスと呼ばれている。
  • テリー・ギリアム監督作品『ローズ・イン・タイドランド』は、DVDソフトのパッケージに『ギリアム版「不思議の国のアリス」』と記述されている。
  • 2007年1月4日に「ふしぎの国」を舞台とした特別番組「不思議の国のアリス 」がフジテレビで放送された。ただし、内容は原作とは無関係である不思議の国のアリス - フジテレビ

ポピュラー・ミュージック


  • ビートルズは、「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンド」や「アイ・アム・ザ・ウォルラス」(ウォーラスは『鏡の国のアリス』に登場)のような曲で、シュール な着想を持っていた。
  • ジェファーソン・エアプレインの楽曲「ホワイト・ラビット」は、LSDによる幻覚を、この作品世界に例えている。
  • 1980年代のイギリスの音楽シーンで、『不思議の国のアリス』を意識した作品が多数出現したことも述べておくべきだろう。1982年を皮切りにし、ゴシック・ロックバンドやインディーズバンド関連において、アリスへのオマージュが集中したのである。例をあげると、のちにMissionのメンバーになるウェイン・ハッセイが在籍していたゴシックバンド、シスターズ・オブ・マーシー The Sisters Of Mercyは1982年にシングル「アリス」をリリース。一連のルイス・キャロル作品のヒロインをイメージしたこの曲はヒット曲となった。1983年にはロンドンにある、ゴシックバンドが好んでライブを行っていた名門のライブハウスBatcave Clubが、名前を"Alice In Wonderland"に変えた。
  • スージー・アンド・ザ・バンシーズ Siouxsie & the Bansheesは自身のレーベルを"Wonderland"と名づけ、1987年にアルバム"Through The Looking Glass"(『鏡の国のアリス』の原題)をリリースした。
  • 自身のミドルネームがAliceでもあるシンガーソングライターのヴァージニア・アストレイ Virginia Astleyの作品は、より明確にアリスへのオマージュが随所にちりばめられている。1983年の彼女のインストゥルメンタルアルバム"From Gardens Where We Feel Secure" には、アリスの冒険が始まった場所Godstowから数マイル南でフィールド・レコーディングされた小鳥のさえずりなどの効果音や、"Tree Top Club"、"Nothing is what it seems"、"Over the edge of the World"などの、小説内の情景を思い起こさせる曲が収録されている。
  • グウェン・ステファニーの曲「ホワット・ユー・ウエイティング・フォー?」のミュージックビデオは、『不思議の国のアリス』にインスパイアされており、ハートの女王の迷路やマッド・ティーパーティを前面に押し出している。
  • トム・ウェイツはアルバム『アリス』をレコーディングした。
  • トム・ペティの曲「ドント・カム・アラウンド」のビデオもアリスの要素を含んでいる。
  • 中島みゆきの舞台「夜会Vol.3 KAN-TAN」は、主人公女性の中で体験することがストーリーの中心になっており、夢の世界の案内人として『不思議の国のアリス』のウサギが登場する。(ちなみにタイトルの「KAN-TAN」とは中国故事邯鄲の夢」のことで、『不思議の国のアリス』とは「夢の中の出来事」という点が共通していると言える。
  • 堀江由衣は、アルバム『水たまりに映るセカイ』・『黒猫と月気球をめぐる冒険』・『嘘つきアリスとくじら号をめぐる冒険』のタイトルを付ける際にアリスの要素が含まれている。また彼女自身も「不思議の国」だけでなく「鏡の国」といったアリスに関する作品のファンでもある。
  • 谷山浩子は、「ウミガメスープ」、「ハートのジャックが有罪であることの証拠の歌」、「公爵夫人の子守唄」など実際に作中に出てきた詩に音楽を付け曲を作っている。また「アリス」、「意味なしアリス」などの『不思議の国のアリス』をオマージュにした作品も数多くある。
  • イギリスのパンクバンドScreaming Tea Partyは、ミニアルバム『Death Egg』を日本で発表している。1曲目「Reckless Rabbit」の冒頭で「私は名前はアリス、白いウサギを追いかけてるの」と英語で少女の声が挿入されており、アルバム全体に『不思議の国のアリス』の情景を思わせる要素がちりばめられている。
  • アヴリル・ラヴィーンは、シングル「アリス「アリス・イン・ワンダーランド」のエンディングテーマを発売。
  • 韓国の現代音楽家、陳銀淑が2007年に同名のオペラを発表、ケント・ナガノの指揮で映像化されている。
  • 松田聖子の「時間の国のアリス」は本作の影響が色濃い。歌詞中に「タキシードを着たウサギが走る」など。
  • My Little Loverの「アリス」は本作の影響を受け「森」をテーマとし、「時計が逆回転する」など、本作の不条理性を表現している。また、CD-ROM作品としてその名も「ALICE IN WONDERLAND」というものがある。

関連項目


脚注


参考文献


  • Lewis Carroll. Alice's Adventures in Wonderland and Through the Looking Glass. Penguin Books ISBN 0-14-030169-0
  • ちくま文庫『原典対照/ルイス・キャロル詩集』ルイス・キャロル著/高橋康也・沢崎順之介訳 ISBN 4-480-02311-9

外部リンク





*1
イギリスの児童文学
イギリスの小説
イギリスのファンタジー小説
1860年代の小説
人間の巨大化・縮小化を題材とした作品



出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


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