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ライムギ(ライ麦、学名Secale cereale)はイネ科の栽培植物で、穎果を穀物として利用する。別名はクロムギ(黒麦)。単に「ライ」とも。食用や飼料用としてヨーロッパや北アメリカを中心に広く栽培される穀物である。寒冷な気候や痩せた土壌などの劣悪な環境に耐性がある。
歴史
原産は小アジアあたりと考えられている。小麦や大麦の原産地よりはやや北の地域である。栽培化の起源は次のように考えられている。もともとコムギ畑の雑草であったものが、コムギに似た姿の個体が除草を免れ、そこから繁殖した個体の中から、さらにコムギに似た個体が除草を逃れ辻本 (2010)、pp.181-182,184-186。といったことが繰り返され、よりコムギに似た姿へと進化(意図しない人為選択)した。さらに環境の劣悪な畑ではコムギが絶えてライムギが残り、穀物として利用されるようになったというものである。同じような経緯で栽培作物となったエンバクとともに、本来の作物の栽培の過程で栽培化されるようになった植物として二次作物と呼ばれる森川 (2010)、p.203。
ローマ帝国では、貧困者が食べるものとしていたため、一時期栽培が激減した。しかし、ローマ帝国の北部では小麦の生育条件が悪く、しばしば小麦畑をライ麦が覆うようになり、2世紀ごろにはライ麦を主目的として栽培されるようになった『ケンブリッジ世界の食物史大百科事典2 主要食物:栽培作物と飼養動物』 三輪睿太郎監訳 朝倉書店 2004年9月10日 第2版第1刷 p.104-105。コムギより酸性土壌に強く、乾燥や寒冷な気候に耐えるため、スカンジナビア半島やドイツ、東ヨーロッパなどでは主要な穀物として栽培されていった。一方で、麦角菌中毒(下で詳述)が中世には大流行し、591年から1789年の間に132回の流行を見た。現在ではライ麦粉は小麦粉よりビタミンB群や食物繊維が多いことを認められて蔑まれることはなくなり、ヨーロッパ全土で栽培されている。しかし19世紀以後、コムギの作付面積が拡大するとともにライムギは栽培面積、栽培量ともに激減し、現代においてもなお栽培は減少の一途をたどっている。
形態
ライムギの近縁種としては、S. montanum、S. africanum、S. vavilovii 及び S. silvestreがある辻本 (2010)、pp183-184阪本 (1996)、p.33 では S. montanum、S. sylvestre、及び S. cereale の3種を挙げ、S. cereale に従来独立種とされていた S. vavilovii、S. ancestrale、S. segetale、S. afghanicum 及び S. cereale が含まれると紹介している。。根がよく発達し、地上面の高さは1.5mから1.8m、3mに及ぶこともある。
コムギとは近縁であり、交配も可能である。ただし、ライムギの花粉をコムギのめしべに受粉させる場合に限り、この逆では実が稔らない。コムギとの交配種をライコムギといい、一時交配では優良な品種が生まれにくいものの、交配種どうしからさらに交配させた品種からは優良種が現れることがあり、選抜して栽培される。
栽培
主に秋に蒔き、夏に収穫するが、春蒔きの品種もある。ライ麦は発芽温度が1℃から2℃と低く、低温に強いため冬作物として栽培される。秋に蒔かれたライ麦は冬を越し、春になると急速に成長する。ライ麦はほかのほとんどの穀物よりも貧しい土壌で生育することができる。そのため、特に砂地や泥炭地などでは特に貴重な作物である。また。ライ麦はほかの穀物よりも耐寒性が強いため、小麦が生育できない寒冷地においてもライ麦は成長できる。一方で、粘土質の土地では生育しにくい。
生産
| 2005年の10大ライ麦生産国 (単位は百万トン) | |
|---|---|
| 3.6 | |
| 3.4 | |
| 2.8 | |
| 1.2 | |
| 1.1 | |
| 0.6 | |
| 0.4 | |
| 0.3 | |
| 0.2 | |
| 0.2 | |
| 世界総計 | 13.3 |
寒冷を好みやせた土壌でも生育するため、東部、中部、北部ヨーロッパやロシアなど高緯度地帯で広く栽培される。主要なライ麦生産地帯はドイツからポーランド、ベラルーシ、ウクライナ、リトアニア、ラトビア、及び北部ロシアへと続く。また、カナダ、アメリカ、アルゼンチン、ブラジル、中国北部でも栽培される。2005年の最大生産国はロシアで、以後ポーランド、ドイツ、ベラルーシ、ウクライナと続く。しかし、需要の減退によってライ麦の生産量は減り続けている。ロシアでは、ライ麦生産量は1992年の1390万トンから2005年には360万トンにまで減少した。同じ時期、ポーランドでは590万トンから340万トン、ドイツでは330万トンから280万トン、ベラルーシでは310万トンから120万トン、中国では170万トンから60万トン、カザフスタンでは60万トンからわずか2万トンにまで減少している。ライムギ自体の反収は農法の改善などにより増加傾向にあるため、栽培面積がそれを上回る勢いで減少していることになる。世界の総栽培面積も、1930年代の4200万ヘクタールから1977年には1400万ヘクタールにまで減少している。『新編 食用作物』 星川清親 養賢堂 昭和60年5月10日訂正第5版 p279ライ麦はほぼ自国の国内で消費され、近隣諸国へ輸出されることはあるものの、世界市場は成立していない。
| ミネラル | ||
|---|---|---|
| カルシウム | 33 mg | |
| 鉄分 | 2.67 mg | |
| マンガン | 121 mg | |
| リン | 374 mg | |
| カリウム | 264 mg | |
| ナトリウム | 6 mg | |
| 亜鉛 | 3.73 mg | |
| 銅 | 0.450 mg | |
| マグネシウム | 2.680 mg | |
利用
種子は粉にしてパンに焼いたり、ウイスキー(ライ・ウイスキーなど)やウォッカの原料としたり、また茎葉と共に家畜の飼料とする。ライ麦パンは色が黒っぽいことから黒パンなどと呼ばれ、ライ麦では小麦よりグルテンが少ないため生地の伸びが悪く、ライ麦のパンは小麦粉のパンよりも焼きあがったのちに密度が高く、目は詰まっているが水分の抜けが少ないので日持ちするジェフリーハメルマン『BREAD』p44~46。パンの発酵にはイースト菌ではなくサワー種と呼ばれる何種類もの微生物が共存した伝統的なパン種を用いることが多い。
日本での現況
日本にライムギが導入されたのは明治時代であり、北海道や東北北部などの寒冷地において栽培された。しかし戦前の栽培面積は数百ヘクタールに過ぎず、第二次世界大戦後すぐに一時急増して1950年には6500ヘクタールまで栽培面積が広がったものの、すぐに急減した。現在では青刈りして飼料や緑肥とするための生産を除きほとんど栽培されていない。緑肥としては、耐寒性が強い上成長が非常に早いため、早く大量の草を得ることができるため利用されることがある。『新編 食用作物』 星川清親 養賢堂 昭和60年5月10日訂正第5版 p288現在、日本で使用されるライムギはほぼ全量輸入であり、2008年には59,281トンが輸入された。輸入先としてはカナダが最大で、輸入量は53,241トンと9割以上を占める。ついで、ドイツ(4,911トン)、アメリカ(1,087トン)と続く。 農林水産省 ライ麦の輸入量とその用途について教えてください。
病害
麦角菌に冒されたライムギ子嚢菌の一種麦角菌が子房に寄生すると、菌核を形成し地面に落下すると一定期間の休眠後、子実体(キノコ)を生じて胞子を飛ばす、一群の麦角アルカロイドと呼ばれる様々な生理活性を示すアルカロイドを含むマイコトキシンが発生する。これが麦角である。麦角菌に寄生されたライムギは黒い角状のものを実の間から生やしたため、これが麦角の名の由来となった。これが発生した畑からの収穫物には種子にまぎれて麦角が混入し、これを粉に挽いてパンなどに調理すると、麦角アルカロイドの毒性によって流産や末梢血管の収縮による四肢の組織の壊死、幻覚などの中毒症状を引き起こすので、食用に適さない。この麦角菌中毒は中世に大流行し、多くの人の命を奪った。
ライムギに関する逸話
漢字の「来(來)」はムギをかたどってできたとされる(來+夂=麥(麦))。一説にライムギの形からできたといわれるが、英語のrye(ライムギ)と同じ語源である可能性は極めて低い。