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「パンドーラー」 ジュール・ジョゼフ・ルフェーブル (1882)
パンドーラー(古典ギリシア語:)は、ギリシア神話に登場する女性で、神々によって作られ人類の災いとして地上に送り込まれた。人類最初の女性とされる。パン()は「全てのもの」で、「ドーラー」()は「贈り物」を意味する「ドーロン」()の複数形。長母音を省略してパンドラとも表記される。
かつては、冥界の相を強く打ち出した地下に住む太女神だったとされる。
彼女が開けたパンドラの箱(パンドラのはこ)についても、本項で併せて詳述する。
パンドーラーの神話
プロメーテウスが天界から火を盗んで人類に与えた事に怒ったゼウスは、人類に災いをもたらすために「女性」というものを作るよう神々に命令したという。ヘーシオドス『仕事と日』によればヘーパイストスは泥から彼女の形をつくり、神々はあらゆる贈り物(=パンドーラー)を与えた。アテーナーからは機織や女のすべき仕事の能力を、アプロディーテーからは男を苦悩させる魅力を、ヘルメースからは犬のように恥知らずで狡猾な心を与えられた。そして、神々は最後に彼女に決して開けてはいけないと言い含めて箱(壺ともいわれる 詳細は後述)を持たせ、エピメーテウスの元へ送り込んだ。ヘーシオドスは『神統記』においてもパンドーラーについて触れ、神々からつかわされた女というものがいかに男たちの災いとなっているか熱弁している。
美しいパンドーラーを見たエピメーテウスは、兄であるプロメーテウスの「ゼウスからの贈り物は受け取るな」という忠告にもかかわらず、彼女と結婚した。そして、ある日パンドーラーは好奇心に負けて箱を開いてしまう。すると、そこから様々な災い(エリスやニュクスの子供たち、疫病、悲嘆、欠乏、犯罪などなど)が飛び出した。しかし、「」(エルピス)のみは縁の下に残って出て行かず、パンドーラーはその箱を閉めてしまった。こうして世界には災厄が満ち人々は苦しむことになった。ヘーシオドスは、「かくてゼウスの御心からは逃れがたし」という難解な言葉をもってこの話を締めくくる。
バブリウス『寓話』は、これとは違った物語を説く。パンドーラーは神々からの祝福が詰まった箱を与えられる。しかしエピメーテウスがこの箱を開けてしまう。祝福は飛び去ってしまったが、ただエルピスだけは残って「逃げてしまった良きものを我々に約束した」という。
この神話から、「開けてはいけないもの」、「禍いをもたらすために触れてはいけないもの」を意味する慣用句として「パンドラの箱」という言葉が生まれた。パンドーラーはその後、エピメーテウスと、娘ピュラーと、ピュラーと結婚したデウカリオーンと共に大洪水を生き残り、デウカリオーンとピュラーはギリシア人の祖といわれるヘレーンをもうけた。
パンドラの箱
箱か壷か
先述の通り、箱に関しては壷という説もある。ヘーシオドスの著書『仕事と日』の文中では、「壷(甕、ピトス)」という表記がされている。これがパンドラの箱について触れられている最古の書物だと言われる。最初に「箱」(ピュクシス)という表記が用いられたのは、ルネサンス時代、ロッテルダムのエラスムスによる記述であり、これは誤訳により甕が箱になってしまったと言われる。
最後に残ったエルピスの諸説
パンドラの箱の物語は多分に寓意的である。特に箱に残ったエルピスをどう解釈するかで物語の理解が分かれる。古典ギリシャ語のエルピスは、「予兆」とも「期待」とも「希望」とも訳され得る。ちなみに、英語圏ではエルピスは「」(希望)と呼ばれている。
予兆説
予兆とする説。予兆説は、箱の中に残されたので外の世界には希望があるとする見方もされる。
- 予知説(前兆説)
- 残されていたのは未来を知る予知能力であるとする説。未来で何が起こるか分かってしまうと人間は絶望して生きる事を諦めてしまう。しかし前兆が最後に残されていたので人々は絶望しないで生きられる。
- ゼウスが予兆を残したとする説
- ゼウスが最後に予兆が残るように仕向け外の世界に希望を残したとされる説。その為、人間は結果が分からなくなり、無駄な努力もしなければならなくなった。
希望説
希望とする説。数多くの災厄が出てきたが、最後に希望が出て来たので人間は絶望しないで生きる事が出来るとされる。特にバブリウスの物語は、「実際の幸福は逃げ去ったが、いつかは幸福が手に入るという希望が残っている」と解釈することができる。
- 期待説(偽りの希望説)
- ゼウスが最後に入れた、もっともな災厄は偽りの希望とされる説。このため人々は絶望する事もできず、空虚な期待を抱きながら生きなければならない。
- 希望を災厄とする説
- そもそも希望は災厄とする説。希望がある為に未来がわからず諦めることを知らない人間は、永遠に希望とともに苦痛を味わわなければならない。
パンドラおよびパンドラの箱にちなんだ作品
- 新・光神話 パルテナの鏡の邪神パンドーラ
- エアロスミスのアルバム『パンドラの箱』。
- ヴェーデキントの戯曲『パンドラの箱』(『ルル』第2部)。
- 太宰治の小説、およびそれを原作とした映画『パンドラの匣』。
- はやみねかおるの小説、怪盗クイーンシリーズの作品『オリエント急行とパンドラの匣(ケース)』。パンドラの匣には未知のウイルスが入っているとされている。
- 吾妻ひでおの漫画『オリンポスのポロン』(1977年-1979年)およびアニメ『おちゃめ神物語コロコロポロン』(1982年-1983年)。全般的に神話を題材とした作品だが、最終話はパンドラの箱を題材としている。
- ロッド・スチュワートのアルバムタイトル『パンドラの匣』(1980年)。
- 南野陽子の8枚目のシングル『パンドラの恋人』(1987年)。
- 上遠野浩平のライトノベル『ブギーポップ・イン・ザ・ミラー パンドラ』(1998年)。冒頭p12に、予兆説に基づくパンドラの匣の解説が登場し、予知能力を持った登場人物たちが描かれている。
- 谷甲州のSF小説『パンドラ』(早川書房、2004年)。地球に環境異変をもたらす彗星の名前として。
- 望月淳の漫画作品「PandoraHearts」(2006年)。
- WOWOW製作・放送の連続テレビドラマ『パンドラ』(2008年)。「がんの特効薬の発見」を「パンドラの箱の開封」に例えている。
- ナイトメア5thアルバムKiller Showの1曲目『パンドラ』。
- 渡辺道明原作の漫画およびアニメ『ハーメルンのバイオリン弾き』。主人公ハーメルの母としてパンドラという女性が登場。邪悪な魔族が封じられた箱を開けてしまう。
- 椎名高志の短編連作漫画『パンドラ』(2003年、全3話)。平凡な青年と、パンドラと名乗る女の子を巡る落ちものコメディ。短編集『(有) 椎名大百貨店』(2008年刊)所収。
- 有栖川ケイの小説『セイント・ビースト』(フィリア文庫出版)。大神ゼウスに従える神官パンドラが人間界にパンドラの箱を持って降臨する。
- 映画『パンドラの箱』:(1929年・ドイツ)
- 映画『パンドラの箱』:(2008年・トルコ)
- 野島伸司のテレビドラマ『世紀末の詩』の第2話「パンドラの箱」。
- 龍門諒原作・恵広史作画の漫画作品『BLOODY MONDAY』Season2「絶望ノ匣(パンドラノハコ)」。
- 車田正美原作の漫画『聖闘士星矢』およびOVA『聖闘士星矢 冥王ハーデス編』(2003年-2008年)。ギリシア神話を題材とし、パンドラという女性が幼少時の自宅にあった禁断の小箱を開けてしまうくだりはパンドラの箱がモチーフとなっている。また主人公たちが着用している聖衣(クロス)を収納する箱「クロスボックス」の別名は「パンドラボックス」。
- アニメ『DARKER THAN BLACK -黒の契約者-』に「PANDORA」という国連機関が登場する。
- ドラえもんのひみつ道具にパンドラの箱をモチーフにした「パンドラボックス」が存在する。
- ゲーム『パンドラの塔 君のもとへ帰るまで』
- 丈月城のライトノベル『カンピオーネ!』主人公が転生して誕生したカンピオーネはエピメーテウスとパンドラの落とし子で、カンピオーネの支援者、義母という設定で登場する。
関連項目