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インフレーション (inflation) とは、経済学においてモノやサービスの全体の価格レベル、すなわち物価が、ある期間において持続的に上昇する経済現象である。略してインフレ。日本語では通貨膨張ともいう。反対に物価の持続的な下落をデフレーションという。

概説


CPI (consumer price index) など各種物価指数の上昇率がインフレーションの指標となる。典型的なインフレーションは、好況で経済やサービスに対する需要が増加し、経済全体で見た需要と供給のバランス(均衡)が崩れ、総需要が総供給を上回った場合に、物価の上昇によって調整されることで発生する。物価の上昇は貨幣価値の低下を同時に意味する。つまり同じ貨幣で買える物が少なくなる。好況下での発生が多いが、不況下にも関わらず物価が上昇を続けることがあり、こちらは特にスタグフレーション (stagflation) と呼ばれる。主にマクロ経済学で研究される現象である。

語源


本来はインフレーションは、マネーサプライの上昇、これはいわば市中に出回っているお金の量が増加(膨張)していくことを意味し、monetary inflationとも呼ばれ、物価レベルの上昇(price inflation)とは厳密には区別される。後者については略語でインフレとも呼ばれ、インフレと言えばこのprice inflationのことを指す場合が多い

物価


物価の安定は、経済が安定的かつ持続的成長を遂げていく上で不可欠な基盤であり、中央銀行はこれを通じて「国民経済の健全な発展」に資するという役割を担う。日本銀行の金融政策の最も重要な目的は、「物価の安定」を図ることにあるとする「教えて!にちぎん」http://www.boj.or.jp/oshiete/outline/01101001.htm資産価格の金融政策運営上の位置付けを考えた場合、資産価格の安定そのものは金融政策の最終目標とはなり得ないというのが、各国当局、学界のほぼ一致した見方である「資産価格と金融政策運営」植村・鈴木・近田(日本銀行ワーキングペーパー1997-7)http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_1998/cwp97j03.htm/。一般物価の安定と資産価格の安定という二つの目標を金融政策という一つの政策手段で達成することは出来ず、一般物価の安定が重点的に割り当てられる金融政策では、資産価格安定の任を成し得ない(→ティンバーゲンの定理日本経済復活 一番かんたんな方法、飯田泰之他著、光文社

インフレーションの要因別分類


大きく分けると、実物的な要因と貨幣的な要因に分けられる。前者はさらに国内要因と貿易要因、需要要因と供給要因に分けられる。

実物的要因によるインフレーション


戦争や産業構造破壊により、供給が需要を大幅に下回ることによって発生するインフレ。第二次大戦終戦直後の日本(1946年)では300%超のインフレ率を記録している。また、ジンバブエでは、政策により白人農家が国外に追い出され農業構造が破壊されたところに旱魃が追い討ちをかけたことにより極度の物不足が発生、最終的に2億3000万%という超ハイパーインフレーションとなった三橋貴明「高校生でもわかる日本経済のすごさ!」彩図社

需要インフレ


需要側に原因があるインフレーションで、ディマンド・プル・インフレ(デマンド・プル・インフレ)とも呼ばれる。供給を大幅に超える需要があることにより、物価が上昇する。1973年から1975年にかけての日本のインフレーションの原因は、オイルショックに注目が集まるが、変動相場制移行直前の短資流入による過剰流動性、「列島改造ブーム」による過剰な建設需要も大きな要因である。

供給インフレ


供給側に原因があるインフレーションで、コスト・プッシュ・インフレとも呼ばれる。多くの場合、スタグフレーションや、それに近い状態になる。

コストインフレ
賃金・材料等の高騰によって発生する。原油価格の高騰によるインフレーションが典型的な例である。
構造インフレ
産業によって成長に格差がある場合、生産性の低い産業の物価が高くなり発生する。例えば効率の良い製造業で生産性が上がり賃金が上昇したとする。これに影響を受けてサービス業で生産性向上以上に賃金が上昇するとサービス料を上げざるを得なくなるため、インフレーションを招く。
輸出インフレ
輸出の増大により発生する。企業が製品を輸出に振り向けたことにより、国内市場向けの供給量が結果的に減って発生する。幕末期に生糸などの輸出が急増し、インフレーションが発生している。このパターンは乗数効果で総需要が増大しているため、需要インフレの側面もある。
輸入インフレ
他国の輸入を通じて国外のインフレーションが国内に影響し発生する。例えば穀物を輸入していた国が、輸出元の国の内需が増加したり輸出元が他の需要国へ輸出を振り分けた場合などに穀物の輸入が減少し、穀物価格が上昇するといった具合である。実際に中国が穀物純輸入国に転じた際、トウモロコシ市場で価格急騰が起きたことがある。
キャッチアップインフレ
賃金や物価統制を行っている体制が、市場経済に移行する際に発生することが多い。米国および日本で1970年代にかけて発生した。欧州では冷戦の終結および欧州中央銀行 (ECB) 拡大による東欧諸国の自由主義諸国への経済統合により、低賃金諸国での賃金・サービス価格の上昇によるキャッチアップインフレが発生しているhttp://www.murc.jp/shimanaka/monthly/2002/eur0207.pdfhttp://www.murc.jp/shimanaka/weekly/2002/eur020624.pdf

貨幣的要因によるインフレーション


貨幣の供給量が増えることによって発生する。貨幣の供給増加は、他のあらゆる財に対する貨幣の相対価値を低下させるが、これはインフレーションそのものである。さらに、貨幣の供給増加は貨幣に対する債券の相対価値を高めることになり名目金利を低下させる。このため通常は投資が増大し、需要増大をもたらす。そのプロセスが最終的に、需要インフレに帰結することでもインフレーションに結びつく。公開市場操作などの中央銀行による通常の貨幣供給調節以外に、貨幣の供給が増える特段の理由がある場合には、「財政インフレ」「信用インフレ」「為替インフレ」などと呼んで区分けることもある。

財政インフレ
政府の発行した公債を中央銀行が引き受けること(財政ファイナンス、マネタイゼーション)により、貨幣の供給が増加して発生するインフレーション「財政赤字の問題点について」http://www.mof.go.jp/singikai/zaiseseido/siryou/zaiseic/c150318f1.pdfPDF-P.2、「デフレ、不良債権問題と金融政策」深尾光洋(財務省財務総合政策研究所2002.8)http://www.mof.go.jp/f-review/r64/r_64_004_041.pdfP.40。金融緩和を経由した効果に加えて、財政支出による有効需要創出効果によって需要インフレも発生する。ハイパーインフレは財政ファイナンスを原因とすることが多い。
信用インフレ
市中銀行が貸付や信用保証を増加させることによって信用貨幣の供給量が増大することから発生するインフレーション。
為替インフレ
外国為替市場を経由して通貨が大量に供給されることで発生するインフレーション。戦前の金解禁における「為替インフレーション論争」を特に指す場合もあるCinii文献情報http://ci.nii.ac.jp/search?q=%E7%82%BA%E6%9B%BF%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%95%E3%83%AC&range=0&count=200&sortorder=1&type=0「為替相場の「名目的」変動の購買力平価説:「外国為替相場変動の二重性」再論」吉田賢一(北海道大学 経済学研究1996.06)http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/32024/1/46(1)_P53-68.pdf「金解禁(昭和5〜6年)の歴史的意義:井上準之助の緊縮財政政策」吉田賢一(北海道大学 経済学研究1988.12)http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/31805/1/38(3)_P47-78.pdf「インフレーションのマネタリイファクター」藤沢正也(小樽商科大商学討究1960)http://barrel.ih.otaru-uc.ac.jp/bitstream/10252/3233/1/ER_10(3)_1-30.pdf。なお、当時は固定相場制であり、現在の変動相場制とは、外国為替市場の動きが貨幣供給量に与える影響が異なることに留意が必要である。

インフレーションの速度別分類


クリーピング・インフレ
ゆるやかに進むインフレーション。インフレ率は年数%で、好況期に見られる。経済が健全に成長していると見なされ、望ましい状態と言われることが多い。「マイルド・インフレ」とも呼ばれる。
ギャロッピング・インフレ
早足に進むインフレーション。馬の早足を表す「ギャロップ」から。インフレ率は年数十%。スタグフレーションに伴って生じることがある。
ハイパーインフレーション
猛烈な勢いで進行するインフレーション。ケーガンによる定義では月率50%を越える物価上昇をハイパーインフレーションとするPhillip D. Cagan, The Monetary Dynamics of Hyperinflation, in Milton Friedman (Editor), Studies in the Quantity Theory of Money, Chicago: University of Chicago Press (1956).。ハイパーインフレは、経済の提供可能な水準を超えて政府がシニョリッジの獲得を図る時に発生する。シニョリッジ獲得のために貨幣を刷って名目貨幣残高を増やした場合、インフレを伴うのでシニョリッジは実質で見ると目減りすることになる。貨幣を刷るほどに、インフレによるこの目減りが加速度的に増加するため、政府が獲得可能な実質のシニョリッジには上限が存在する。この上限に達した状況から、政府がさらなるシニョリッジを求めて貨幣を刷った場合、インフレが一層昂進して政府は目的としたシニョリッジを確保することができない。それでますます貨幣を刷ってシニョリッジを獲得しようとすると、その結果インフレがさらに昂進して…、という悪循環に陥ることになる。これがハイパーインフレである。

生活への影響


賃金も物価の上昇に伴って上昇するが、物価に比べると調整に遅れをとるため、実質賃金が下がり、雇用を増やしやすくするので失業率は下がる(フィリップス曲線)。期待インフレ率が高まり実質金利が低下した場合には、消費と投資が増大する。ただし、インフレ率が過度に高まった場合には将来の予測が困難になり、不確実性を高めることから消費や投資は停滞する。物価上昇率が預金金利を上回ると預貯金の価値を実質的に引き下げる。物価上昇率が貸出金利を上回った場合、インフレにより実質的な負債の価値が下がり、その結果実質的な返済負担が減る(住宅ローンなど)。

対策

インフレーション対策の例


  • 金融引き締め(政策金利公定歩合の引き上げ)
  • 財政支出の削減
  • 増税をして消費を抑える

など

代表的なインフレーション

世界最古のインフレーション


記録に残る世界最古のインフレーションはマケドニア王国アレクサンダー大王の時代の事であると言われている。このインフレーションは、大王がアケメネス朝ペルシアなどの国々を征服して、征服先の国家の財宝などを接収して兵士達への恩賞に充て、その結果としてギリシア世界に大量の金銀が持ち込まれたため発生した。

価格革命のインフレーション


ピサロによるインカ帝国征服後、ポトシ銀山などから大量の金銀がスペインに運ばれた。1521年から1660年までの間にスペインに運ばれた金銀の量は金200トン、銀1.8万トンと言われる。これらの金銀は主に貨幣となったため、欧州全域で貨幣価値が3分の1になった。つまり物価が3倍になるインフレーションが起こったわけで、これを「価格革命」と言った。貨幣供給により商工業の発展が起こり、地代の減少のために封建領主層が没落するなどの社会的変化をもたらした。

日本のインフレーション

ドイツのインフレーション



1924年に発行された100兆[[パピエルマルク紙幣。前年末に行われた1:1兆のデノミネーションにより、100レンテンマルクの緊急紙幣として使用された。第一次世界大戦後のドイツでは、連合国側に対して1320億金マルク賠償金支払いが課された。しかし、これはドイツの支払い能力を大きく上回っており、賠償金の支払いは滞った。これを理由に1923年イギリスの反対を押し切ってフランスベルギーがドイツ屈指の工業地帯であり地下資源が豊富なルール地方を、現物による賠償金支払いを求めて軍事占領した。占領に対し、ドイツ政府は受動的な抵抗運動を呼びかけ、ストライキに参加した労働者の賃金は政府が保証した。既に第一次世界大戦中よりドイツではインフレーションが進行していたが、抵抗運動に伴う財政破綻によって致命的な状況へと導かれ、空前のハイパーインフレが発生した。この結果、1年間で対ドルレートで7ケタ以上も下落するインフレーションとなり、パン1個が1兆マルクとなるほどの状況下で、100兆マルク紙幣も発行されるほどであった。この破滅的な状況下で、ドイツの人々はヴェルサイユ体制への不満を募らせた。幸い、シュトレーゼマン首相のレンテンマルク発行(11月15日)による1:1兆のデノミネーションにより奇跡的にインフレーションが収拾されたこともあり、この段階では議会制民主主義が揺らぐことはなかった。アドルフ・ヒトラーミュンヘン一揆を起こしたのもこのインフレーション期であるが、一揆は失敗に終わった。

しかし、1929年世界恐慌でドイツ経済が再び崩壊すると、議会制民主主義への信頼は失われ、ヴェルサイユ体制打破を掲げる反動的なナチスへの支持が急増し、ファシズム政権の成立へと至った。

ハンガリーのインフレーション



ハンガリーでは第二次世界大戦後に激しいハイパーインフレが発生した。このときのインフレーションでは16年間で貨幣価値が13000分の1になったが、20桁以上のインフレーションは1946年前半の半年間に起きたものである。大戦後、1945年末まではインフレ率がほぼ一定であり、対ドルレートは指数関数的増大にとどまっていたが、1946年初頭からはインフレ率そのものが指数関数的に増大した。別の表現でいえば、物価が2倍になるのにかかる時間が、1か月、1週間、3日とだんだんと短くなっていったということである。当時を知るハンガリー人によると、一日で物価が2倍になる状況でも市場では紙幣が流通しており、現金を入手したものは皆、すぐに使ったという高安秀樹ら(2002)。1946年に印刷された10垓ペンゲー紙幣(紙幣には10億兆と書かれている)が歴史上の最高額面紙幣であり(ただし、発行はされていない)、最悪のインフレーションとしてギネスブックに記録されている。

なお、実際に発行された最高額面紙幣は1垓ペンゲー紙幣(紙幣には1億兆と書かれている)である。

※1京は1兆の1万倍(10の16乗)、1垓は1京の1万倍(10の20乗)。

ブラジルのインフレーション

アルゼンチンのインフレーション



1988年、経済成長の後退からハイパーインフレが発生。1989年には対前年比50倍の物価上昇が見られ、1992年ドルペッグ制アルゼンチン・ペソを導入するまで、経済が大混乱となった。庶民のタンス預金は紙屑同然となった。

ロシアのインフレーション

ユーゴスラビアのインフレーション

メキシコのインフレーション

コンゴのインフレーション

トルコのインフレーション

ジンバブエのインフレーション



ジンバブエでは独立後から旧支配層に対して弾圧的な政策を実施。治安の悪化も重なり、富裕層が海外へ流出する結果となった。こうした傾向はインフレーションに拍車をかけ、2000年代に入ると経済が機能不全に陥る猛烈なインフレーションに直面することとなった。ジンバブエ準備銀行は2008年7月時点で年率2億3100万%に達したと発表、同8月に通貨を10桁切り下げるデノミネーションを行った。その後のインフレーションの影響で9月30日に2万ジンバブエ・ドルの発行など、デノミネーション後に20種類の紙幣を発行し、同12月19日に100億ジンバブエ・ドル紙幣を発行した。現在この8年間で23桁以上のインフレーションとなっていて、うち2008年だけで約14桁、9月から3か月で約10桁のインフレーションとなった。さらに2009年2月2日、1ジンバブエドルを1ジンバブエドルに、桁数にして12桁を切り下げる措置を講じた。結局、同年2月にジンバブエは公務員給与を米ドルで支払うと発表してジンバブエ・ドルが公式には流通しなくなり、4月12日にはジンバブエドルの流通を停止とアメリカ・ドルやおよび南アフリカランドなどの外国通貨での国内決済にする移行を発表することを余儀なくされた。その後、外貨の使用に伴ってインフレは沈静化した。ジンバブエのインフレーションの特徴としては、ネット社会によって世界中の人々が素早く物価上昇に関する情報が入手できた点が挙げられる。

局地的インフレーション



国単位でのインフレーションの他に、地域単位、都市単位でインフレ現象が起きることがある。現代的に問題になっているのは、国際連合平和維持活動 (Peace-Keeping Operations : PKO) に伴うインフレーションである。紛争地域の停戦後、平和維持のために派遣される各国の部隊は、経済が疲弊している所に急に現れる富裕層と同じである。そのため、駐屯地の周辺では、部隊が調達する生活物資・食料品を中心に価格上昇が起きてインフレーションとなり、紛争で困窮した周辺住民の生活を圧迫する。対策として部隊員の駐屯地外での購買活動抑制が行われており、PKO部隊は Price Keeping Operation も同時に行っていることになる。日本では、明治以降の資本主義経済化の下で局地的なインフレーションが見られた。農業地域や未開拓地域(北海道)に工業鉱業・巨大物流施設(港湾)が出来ると、急激な資本投下と人口の急増(都市化)とが発生し、生活物資の必要から局地的なインフレーションが起きた。そのため、物価安定を目的に日本銀行の支店や出張所が置かれた。日銀の支店・出張所の開設場所や開設時期は、その地域での経済活動に伴う局地的インフレ懸念と密接に関係している。

脚注


関連項目


参考文献



経済現象
経済史



出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


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