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イスラム原理主義(イスラムげんりしゅぎ、Islamic fundamentalism)は、イスラム的な政治国家社会の実現を目指して行われる政治活動や諸運動やその思想。つまり、世俗法ではなくイスラム法(シャリーア)によって統治されるイスラム国家の建設を目指す政治活動や諸運動のこと。本来はイスラム主義 (Islamism) と同義であるが、イスラム過激派もイスラム主義に基づいて行動しているので、特に非イスラム教国においてイスラム主義を否定的な意味合いで言及する場合に多用される。

特色


一般に認識されている「イスラム原理主義」という言葉は、クルアーンの無謬を信じて厳密に字義どおり解釈し、ムハンマドの時代のウンマ(イスラム共同体)を復興させようとする運動のことである。イスラム法に基づく社会の実現を目指しているため、近代的価値観や西洋的価値観の流入への抵抗運動としての側面もある。また、「イスラム原理主義」は日本を含む非イスラム教徒の間では「他宗教や無宗教、無神論に対する凄まじい憎悪を持つ過激で暴力的な思想」としても認識されている場合があり、実際にムスリムの中には「イスラム以外の宗教や無神論、無宗教は皆間違い、地獄に落ちる」などという主張を行う者もおりイスラームにおける生き方、こういった硬直的とも言える思想を唱えた代表的思想家にはムスリム同胞団サイイド・クトゥブがいる。クトゥブは1960年代の現代エジプト社会を「ジャーヒリーヤ」(イスラム誕生以前の「無知蒙昧な」アラビア半島社会を指す)と形容し、武力(暴力)によるジハードを用いてでもイスラム国家を建設すべきであると訴え「道標」を著した。このクトゥブ主義(Qutbism)は、社会主義共産主義自由主義民族主義国民主義などの西欧近代思想を受容しつつも社会的・政治的不公平を解決できずに腐敗と圧制を重ね中東戦争イスラエルに敗北を重ねた各イスラム教国の政権(特にアラブ諸国)に対する各国のムスリムの不満を背景にムスリムの若者達に多大な影響を与え、一部の若者をイスラム過激派に走らせる原点となった。なお、「イスラム過激派」に「イスラム原理主義者」の語を分析概念として用いるのは正確ではなく、仮に「原理主義者」であっても、それを実現するために暴力や破壊を用いる「過激派」としての行動を志向しない者もいる。

保守派ムスリムや親イスラム的なイスラム研究者の間では、上記のような「大量殺戮も厭わないイスラム過激派の思想」であるとの誤解を生みやすい「イスラム原理主義」という語句を忌避し、近代以降におけるイスラムの理念を国家・社会に実現しようとする政治的な「イスラム主義」運動の事を「イスラム復興主義」、「イスラム改革主義」、「政治的イスラム」とも呼称している。また「イスラム原理主義」の呼称は、キリスト教における原理主義 (fundamentalism) の「イスラム版」という意味合いで欧米の学者が用いたものであることから、日本語にそのまま適用するのは不適切とする説もある。

語源


イスラム原理主義」という日本語表現は、本来は、イラン革命などのイスラム法(シャリーア)による統治の復活を唱えるイスラム教徒による運動を指してアメリカなどで英語で「Islamic Fundamentalism」と呼んだものの日本語訳である。Islamic Fundamentalism という語が用いられ、定着する以前においては、Fundamentalism原理主義)という語はもっぱら、プロテスタントの中でも米国を中心とした一派で聖書に関して逐語霊感説をとり一字一句字義通りに理解し、千年王国の到来を固く信じる "Fundamentalist Christianity" (ファンダメンタリスト・キリスト教)、あるいは "Christian Fundamentalism" (キリスト教根本主義)を指した。ただし、日本のキリスト教界では「根本主義」という訳語が好まれており、「原理主義」というのは外部から用いられる呼称である。

イスラム教における宗教的な理念に基づく社会の実現を目指す運動は、イスラム教の共同体を原初の理想的な姿に回帰させることを志向しており、この点において、「千年王国」を強く意識したメシア信仰に基づく根本主義とは異なるイスラム教においてメシアはアラビア語でマフディーと呼ばれ、主にシーア派および北アフリカスンナ派の一部において、キリスト教の根本主義に似るマフディー信仰が盛んである。

しかし、このようなイスラムにおける運動を、英語圏の人が英語によってとらえ、表現する際に、「宗教的な典範を第一原理とし、それをそのまま現実社会と結びつけようとする」という表象上の特色がキリスト教の根本主義に類似していることに着目し、「キリスト教の原理主義 (Christian Fundamentalism)」と対比させて身近で直観的に理解されやすい「イスラム教の原理主義 (Islamic Fundamentalism)」の語が使われ始めたものである。

日本における「原理主義」のイメージと評価


キリスト教文化を共有していないにもかかわらず、「原理主義」の語が取り入れられた日本では、とりわけマスコミで「イスラム原理主義者のテロリズム」という報道が行われたために、この語が「政府の転覆を図る狂信者」「宗教テロ」のイメージと繋がりやすく、極論すれば「イスラム信者テロリスト」「イスラム教=殺しや暴力を正当化する邪教」という偏見のステレオタイプで見られる傾向まである警視庁国際テロ捜査情報流出事件。この問題では情報提供を行った在日ムスリム達が「テロ予備軍扱いされた上プライバシーが危険にさらされている」と提訴する騒動に発展している。これは、キリスト教原理主義の起こす北米の社会問題に比して、イスラム原理主義者に帰された国際テロ事件のほうが大きく、頻繁に報道されることによる。実際には、一般に「イスラム原理主義」として評価されることの多いワッハーブ主義を国是とするサウジアラビアが、穏健派の親米アラブ国家の代表格であるように、現実の政治の場では「イスラム原理主義=過激派」と単純にとらえることはできない。

このために、イスラム主義・イスラム復興運動の全体を上述のような偏見に結びつく「原理主義」の語で捉えることを批判するイスラム研究者も少なくない。特に、「イスラム原理主義」と広く呼ばれる範疇に属する運動は、イスラム社会の広い範囲で見られ、ムスリムの間で一定の影響力を持っていることから、「イスラム原理主義のテロ」といったような言葉であらわされる暴力的な活動が、広範なムスリムに支持されているようなイメージが先行する傾向があることが批判されるエジプトなど、多くの国ではいわゆる「イスラム原理主義過激派」が起こすテロは一般の健全なムスリムまで巻き込んできたこと、またイスラム教が説く慈悲・寛容の精神から外れているとして、国民の大多数には支持されていない。こうしたテロをも辞さない過激派は現地でもムタタッリフィーン(過激主義者)と称され、社会から異端視されることが多い。

一方、社会学的観点からは1970年代頃から世界的に高まっているさまざまな宗教の宗教復興の動きを広く総称する用語として「原理主義」、「ファンダメンタリズム」と定義し、イスラム教の復興を「イスラム圏における原理主義」として世界的潮流の一部と捉える見方が支配的になっており、イスラム研究の立場と異なる。

しかし、上述のような理由により「イスラム原理主義」という言葉の指し示す対象と範囲、その言葉の持つニュアンスについては、日常と学術の現場において「キリスト教原理主義」のそれよりもはるかに大きな乖離が発生しており、どのような立場に立つにせよ、その取り扱いに注意を要する。

1990年代頃から盛んに行われてきたイスラム研究者の発言は近年、日本の言論界やマスメディアにもある程度定着しており、「イスラム原理主義」の「過激派」が起こしたテロは「イスラム信者が起こしたテロ」「イスラム原理主義者が起こしたテロ」ではなく「イスラム過激派が起こしたテロ」という表現が行われるようになってきた「イスラム過激派」という日本語の用語についても、厳密な定義がなされないまま用いられていることから問題視する日本人研究者も存在する。

脚注


 関連項目



*
イスラームと政治
20世紀以降のイスラム世界史
宗教原理主義



出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


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